静岡県駿東郡小山町大型貸切バス横転事故(令和4年発生)事業用自動車事故調査報告書を公表

公益財団法人交通事故総合分析センターのプレスリリース

事業用自動車の交通事故防止と交通事故時の被害軽減を目的として設置された、国土交通省の外部委託組織である事業用自動車事故調査委員会(委員長:酒井 一博)は、令和4年(2022年)10月13日に静岡県駿東郡小山町で発生した大型貸切バスの横転事故に関する調査報告書を議決しましたので、公表いたします。

本事故は「特別重要調査対象事故」に該当し、社会的影響の大きさだけでなく、事故原因が事業者の組織的・構造的な問題に起因する可能性のある、早期に有効な再発防止策の提言が必要であると判断されました。

【本事故について】

■  事故概要

乗客34名を乗せた大型貸切バスが、富士山須走口五合目から小山町須走地区へ至る「ふじあざみライン」の、つづら折りの下り急勾配の道路を走行中にフットブレーキを多用。これによりフェード現象が発生して制動力を失い、事故地点のカーブを曲がり切れず道路左側の法面に衝突・横転した。この事故で乗客1名が死亡し、9名が重傷、18名が軽傷を負った。

■  事故原因

  • 運転者が乗客の乗り心地を優先したフットブレーキによるスムーズな減速を選択をしたこと、およびフェード現象への認識を誤っていたこと。

  • また事業者、運行管理者が運転者に係る危険な運転特性を把握していなかったこと。

  • 初めての運行経路に不安を感じた運転者に、潜む危険性を理解させる適切な指示をしていなかったことが原因とされている。

■  対策

  • 適切な指導監督、および運行管理。

  • 初任運転者に係る自己流の危険な運転を防止するとともに、運転者の過去の運転経験を踏まえ、運行経路に潜む危険を理解させる適切な運行前指示が求められている。

本調査報告書は事業用自動車事故調査委員会によって事業用自動車事故、および事故に伴い発生した被害の原因を調査・分析し、事故の防止と被害の軽減に寄与することを目的として作成しており、事故の責任を問うために行われたものではありません。

今後も事業用自動車事故調査委員会は、交通事故の少ない社会を実現するために活動を続けてまいります。

【事業用自動車事故調査委員会について】

本委員会は、交通事故防止と交通事故時の被害軽減を目的として、各分野の専門家を擁し国土交通省の外部委託組織として平成26年(2014年)に設置され、年に四回開催されています。

「特別重要調査対象事故」と「重要調査対象事故」の二種類の重要事故について調査を実施しており、本件を含めこれまでに特別重要調査対象事故17件、重要調査対象事故44件の調査報告書を公表しています。

大型貸切バスの横転事故

フェード現象でブレーキが効かず法面に衝突・横転

静岡県駿東郡小山町 令和4年10月13日11時50分頃

事故概要

大型貸切バスが「ふじあざみライン」つづら折りの急勾配の道路を走行中、フェード現象が発生し、制動力を失いカーブを曲がりきれず横転。

  • 事故の状況

    乗客34名を乗せた大型貸切バスが、富士山須走口五合目から小山町須走地区へ至る「ふじあざみライン」の、つづら折りの下り急勾配の道路を走行中に事故が発生。

    エンジンブレーキの効きにくい高い変速段でフットブレーキを多用したことにより、フェード現象が発生して制動力を失ったことが原因となり、約93km/hまで加速し事故地点のカーブを曲がり切れず、道路左側の法面に衝突・横転した。この事故により、乗客1名が死亡、9名が重傷、18名が軽傷を負った。

  • 状況図

原因

運転者の誤認識

乗客に乗り心地が良いと思ってもらえる運転を心がけて、フットブレーキによるスムーズな減速を選択した。大型貸切バスの運転経験年数が短い運転者にとって、過去に経験のない急カーブと急勾配の連続した道であった。フェード現象に関する知識はあるが他人事で、フットブレーキを踏めばいつでも止まれるといった誤認識があった。フェード現象については教習所でも習っていて、先輩運転者からフットブレーキを使い過ぎると効かなくなるという話は聞いていたが、自分がそうなるとは全く思っていなかった。

事業者・運行管理者の潜在的な危険性指導不足

フットブレーキを多用するなど、運転者に係る自己流の危険な運転特性を把握していないこと、初めての運行経路に不安を感じた運転者に、潜む危険性を理解させる適切な指示をしていないかったことが原因。フェード現象など、経験しないと理解できない運転上の危険性を理解させる指導が行われていなかったことも一因である。

  

参考

「自己流の運転」 同様の事故が過去にも発生

平成27年 (2015年) 6月29日、神奈川県足柄下郡の箱根新道において、トラクタ・コンテナセミトレーラがコンテナを積載して走行中、長い下り坂の先のカーブを曲がり切れずにガードレールを突き破り転落。この事故により運転者が死亡した。フットブレーキの多用でフェード現象が発生し、制動力を失ったことが原因と考えられる。運転者一人一人の「自分には無関係」という認識の払拭と、事業者による下り坂における運転方法についての指導教育の徹底が求められる。

再発防止策

適切な指導監督

  • 初任運転者に係る自己流の危険な運転を防止するための、継続的な指導監督を実施すること。

  • 同僚運転者を含む事業者全体で初任運転者を真のプロドライバーに育てる職場環境を作ること。

  • 実車運転指導では、令和6年(2024年)国土交通省作成の「貸切バスの実技指導の例」(https://www.youtube.com/watch?v=4uVEFeARSBA)を参考にすること。

適切な運行管理

  • 点呼は、運行管理者が原則対面で確実に実施し、運転者が安全に運行できるための必要な指示を行い、運行後はその結果を確認すること。

  • 経験のない経路を運行することが多い貸切バスでは、運転者の過去の運転経験を踏まえ、運行経路に潜む危険を理解させる適切な運行前指示を実施すること。

事業用自動車事故調査委員会について

「事業用自動車事故調査委員会」は、平成26年(2014年)6月24日に設立された事業用自動車が関わる重大事故について、その原因を分析し、再発防止策を提言するための事故調査機関。

https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/jikochousa/report1.html

概要

  • 人間工学、労働科学、健康医学、自動車工学、交通工学、道路工学などの専門知識を有する者で構成

  • 毎年4回開催し、報告書について審議

委員会の様子
調査事例軽井沢スキーバス事故※ 国土交通省ウェブサイトから
公表の状況•特別重要調査対象事故:17件 •重要調査対象事故:44件

経緯

  • 社会的影響の大きな事業用自動車の重大事故については、事故の背景にある組織的・構造的問題の更なる解明を図るなど、より高度かつ複合的な事故要因の調査分析と、客観性のあるより質の高い再発防止策の提言を得ることが求められている。

  • 平成26年(2014年)6月、 「交通事故総合分析センター」を事務局として、各分野の専門家から構成される「事業用自動車事故調査委員会」を設置し、事業用自動車の重大事故について事故要因の調査分析を行っている。

事故調査の流れ

事業用自動車事故調査委員会委員名簿

  • 酒井 一博

公益財団法人大原記念労働科学研究所主管研究員

  • 今井 猛嘉

法政大学法科大学院 教授、弁護士

  • 小田切 優子

東京医科大学医学部医学科公衆衛生学講座 講師

  • 春日 伸予

芝浦工業大学 名誉教授

  • 久保田 尚

埼玉大学大学院 理工学研究科 名誉教授、日本大学 客員教授

  • 首藤 由紀

株式会社社会安全研究所代表取締役 所長

  • 吉田 裕

関西大学社会安全学部 教授

  • 廣瀬 敏也

芝浦工業大学工学部 教授

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