山形県東根市中型トラック追突事故(令和3年発生)事業用自動車事故調査報告書を公表

公益財団法人交通事故総合分析センターのプレスリリース

事業用自動車の交通事故防止と交通事故時の被害軽減を目的として設置された、国土交通省の外部委託組織である事業用自動車事故調査委員会(委員長:酒井 一博)は、令和3年(2021年)10月18日に山形県東根市で発生した中型トラックの追突事故に関する調査報告書を議決しましたので、公表いたします。

本事故は「重要調査対象事故」に該当し、事故原因が事業者の組織的・構造的な問題に起因する可能性があり、同種事故の多発が予測され、早期に有効な再発防止策が必要であることなどを勘案し、事故調査委員会による要因分析及び再発防止策の提言が必要であると判断されました。

【本事故について】

■ 事故概要

中型トラックが、バス停留所で客扱いのため停車していた乗合バスに追突。この事故により、乗合バスに乗車しようとしていた乗客2名が重傷を負った。うち1名は、約1年後に死亡。

■ 事故原因

下記の3つが原因と結論付けられた。

・休憩する場所を探してわき見による前方不注意

・当初計画以上の荷下ろし作業で疲労し、眠気を感じ休憩場所を探しながらの走行

・初任運転者に対する不十分な指導教育 

■ 対策

下記の3つの指導が運行管理者に求められている。

・適切な作業時間と休憩時間の確保

・休憩取得のための指導

・わき見運転及び居眠り運転の危険性を理解させる指導

本調査報告書は事業用自動車事故調査委員会によって事業用自動車事故、および事故に伴い発生した被害の原因を調査・分析し、事故の防止と被害の軽減に寄与することを目的として作成しており、事故の責任を問うために行われたものではありません。

今後も事業用自動車事故調査委員会は、交通事故の少ない社会を実現するために活動を続けてまいります。

【事業用自動車事故調査委員会について】

本委員会は、交通事故防止と交通事故時の被害軽減を目的として、各分野の専門家を擁し国土交通省の外部委託組織として平成26年(2014年)に設置され、年に4回開催されています。

「特別重要調査対象事故」と「重要調査対象事故」の2種類の重要事故について調査を実施しており、本件を含めこれまでに特別重要調査対象事故16件、重要調査対象事故44件の調査報告書を公表しています。

中型トラックの追突事故

停車していた乗合バスにトラックが追突

山形県東根市令和3年10月18日午後1時01分頃

事故概要

中型トラックが、バス停留所で客扱いのため停車していた乗合バスに追突。この事故により、乗合バスに乗車しようとしていた乗客2名が重傷を負った (うち1名は、約1年後に死亡)。

事故の状況

休憩する場所を探してわき見による前方不注意

ドライバーは当初計画以上の荷下ろし作業で疲労し、眠気を感じながらも休憩場所を探しながら走行していた。そのため前方に対する注意が不十分となり、停車中の乗合バスを発見するのが遅れ、追突。

状況図

原因

当該事業者の不適切な管理により運転者負担増

通常、荷下ろしは、配送先の従業員と2人で行うことになっているが、事故当日は3ヶ所のうちA社とC社では1人で荷下ろしを行っており、通常より負担の重い作業となった。また、A社での1人での荷下ろしに約2時間10分を要したため、B社以降の荷下ろしの予定時間に間に合うよう7時10分頃から事故発生時の13時01分まで、約6時間休憩を取らないまま荷下ろしと運転を継続している。当該事業者は、運転者への負担増となる配送先での荷下ろし作業について、適切に管理していなかったと考えられる。

初任運転者に対する指導教育が不十分 

初任運転者の採用時に行った特別な指導、初任運転者適性診断の結果及び採用後に惹起した物損事故に対する指導教育は実施しているものの、これらの指導内容が理解され、改善されているかについて、添乗調査などを活用した個別指導が不十分。

背景

「トラックドライバーの長時間労働」への対策は進んでいるか?

トラックドライバーの長時間労働を是正するため、トラック運送事業者と荷主とが連携して

荷待ち時間の削減や荷役作業の効率化など実効性のある取り組みの実施が急務。

再発防止策

適切な運行管理(運送事業者)

  • 運転者による積下ろし作業が予定されている運行計画を作成する場合は、その作業量に見合った作業時間などを考慮するとともに、疲労回復のための休憩時間を設けるなどの配慮。

  • 運行中に疲労や眠気を感じたときは、早めに休憩するよう適切に指導。

  • わき見運転及び居眠り運転の危険性を十分理解させるよう指導。

運送事業者への適切な業務依頼(荷主)

  • 運送事業者や運転者にとって負担となる「荷待ち時間の増大」「無理な到着時間の設定」「やむを得ない遅延などに対するペナルティ」や「過大な荷役作業」などを削減する適切な業務依頼。

事業用自動車事故調査委員会について

「事業用自動車事故調査委員会」は、平成26年(2014年)6月24日に設立された事業用自動車が関わる重大事故について、その原因を分析し、再発防止策を提言するための事故調査機関。

https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/jikochousa/report2.html

概要

  • 人間工学、労働科学、健康医学、自動車工学、交通工学、道路工学などの専門知識を有する者で構成

  • 毎年4回開催し、報告書について審議

委員会の様子
調査事例 軽井沢スキーバス事故 ※ 国土交通省ウェブサイトから
公表の状況•特別重要調査対象事故:16件 •重要調査対象事故:44件

経緯

  • 社会的影響の大きな事業用自動車の重大事故については、事故の背景にある組織的・構造的問題の更なる解明を図るなど、より高度かつ複合的な事故要因の調査分析と、客観性のあるより質の高い再発防止策の提言を得ることが求められている。

平成26年(2014年)6月、 「交通事故総合分析センター」を事務局として、各分野の専門家から構成される「事業用自動車事故調査委員会」を設置し、事業用自動車の重大事故について事故要因の調査分析を行っている。

事故調査の流れ

事業用自動車事故調査委員会委員名簿

  • 酒井 一博

公益財団法人大原記念労働科学研究所主管研究員

  • 今井 猛嘉

法政大学法科大学院 教授、弁護士

  • 小田切 優子

東京医科大学医学部医学科公衆衛生学講座 講師

  • 春日 伸予

芝浦工業大学 名誉教授

  • 久保田 尚

埼玉大学大学院 理工学研究科 名誉教授、日本大学 客員教授

  • 首藤 由紀

株式会社社会安全研究所代表取締役 所長

  • 吉田 裕

関西大学社会安全学部 教授

  • 廣瀬 敏也

芝浦工業大学工学部 教授

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