革新的放熱素材「Thermalnite」で小型電動車両の性能向上に成功!

高熱伝導×最適構造設計で電力密度1.5倍を実現!次世代モビリティの放熱課題を解決

公益財団法人科学技術交流財団のプレスリリース

革新的放熱部材「Thermalnite」(ファイバー状窒化アルミニウム単結晶)の開発を手掛ける株式会社U-MAP、高精度シミュレーション技術を有するAZAPA株式会社、電動モビリティプラットフォームの開発を行うFuture株式会社は、小型電動車両を対象とした放熱部材の実証実験および高精度シミュレーション技術の共同開発に成功しました。本プロジェクトでは、小型電動車両(バイク)「FUTURE board 2」に「Thermalnite」を適用したインバーター※1を搭載し、適用効果の実証実験を行いました。また、車両の消費エネルギーやパーツの温度変動を推定する電動車両シミュレーターを開発しました。

 

 上記の実証実験データと電動車両シミュレーターを活用することで、「Thermalnite」を用いた放熱部材を既存のインバーターに適用すれば、電力密度(kW/L)を約1.5倍向上できることが明らかになりました。また、電動車両シミュレーターにより、車両パーツの構造や材料物性値から車両の走行性能を推定できることも確認されました。

◢背景と目的

1. 開発の背景

 電子機器は常に熱との戦いを強いられており、放熱性が製品の性能やエネルギー効率に大きく影響します。このため、熱伝導性に優れた放熱材料と共に適切な放熱設計が要求されます。これまで株式会社U-MAPでは、電子機器への適用を目指し、独自に開発したファイバー状の放熱素材「Thermalnite」をセラミックス基板や樹脂シートに添加し、熱伝導性と機械的強度を併せ持つ放熱部材の開発を行ってきました。その結果、従来品を大きく上回る性能を実現することに成功しました。一方、放熱設計は材料特性に応じた構造設計が必要となりますが、これまでの構造設計では材料特性の強みを十分に活かすことができていませんでした。

本プロジェクトは、高性能放熱材料と最適な構造設計を融合させることで、この課題を解消し、電子機器の性能向上を目指してきました。具体的には、小型電動モビリティのインバーターに「Thermalnite」を添加した高熱伝導性の放熱シートを搭載し、放熱性の改善効果を検証すると共に車両のエネルギーや温度を推定する電動車両シミュレーターを開発しました。

2. 開発の概要 

 図1に本プロジェクトで開発した高熱伝導性の放熱シートの写真を示します。このシートは、「Thermalnite」を添加したシリコーンゴムであり、従来の放熱性樹脂に比べて優れた熱伝導性(熱伝導度5W/mK)と高い機械強度(従来比4倍)を併せ持ち、0.1mmという超薄型であっても強度を保ちながら優れた放熱性能を示します。

図1 「Thermalnite」を添加したシリコーンゴム製放熱シート

 従来の小型電動車両では、インバーターを構成するパワー半導体※2と放熱板の接合部にカプトンフィルム(熱伝導率0.3W/mK)が用いられていますが、今回、この部分を図1の放熱シートに置き換えることにより放熱性改善を図りました(図2)。提携先のFuture株式会社製の車両を使用して、既製品車両とインバーターに放熱シートを搭載した車両を同時走行させ、走行時のインバーター内のパワー半導体の温度を計測することにより放熱性を比較しました。その結果、放熱シートによるパワー半導体の温度上昇抑制が確認されました。

図2 実験車両の写真(Future㈱製board2)及びインバーターの内部構造図

 また、並行して車両のインバーターのパワー半導体の温度や消費エネルギーを推定する電動車両シミュレーターを開発し、パワー半導体の温度変動シミュレーション結果が実測値を高精度に再現することを確認しました(図3)。

図3 小型電動車両走行時のインバーター内のパワー半導体の温度変動の実測値とシミュレーション結果の比較

 上記の走行実験データとシミュレーターを用いて、既製品車両と「Thermalnite」適用車両に対してインバーターの電力密度(kW/L)とパワー半導体温度の関係をシミュレーションした結果、図4に示すように、パワー半導体が正常動作する限界温度(150℃)に達するインバーター電力密度が、「Thermalnite」適用車両では既製品車両の1.5倍まで向上することが分かりました。即ち、「Thermalnite」を適用したインバーターは、同一体積で1.5倍のエネルギーを出力可能であることが分かりました。

図4 既製品車両と「Thermalnite」適用車両のインバーターの電力密度とパワー半導体温度の関係(シミュレーション結果)

3. 今後の展望

 本技術は、熱問題を抱える電動車両において、開発スピードの加速と放熱材料による車両性能の向上を実現することにつながります。また、電動車両における熱問題の解決を通じて、持続可能な未来社会への貢献が期待されます。

 また、「Thermalnite」の更なる性能向上や多様な材料への適用を進めることで、車両に限らず、広くエレクトロニクスの性能向上やエネルギー効率を高める新しい製品設計が可能となります。特に、環境に優しいモビリティ技術の普及を促進し、地球規模での温室効果ガス削減やエネルギー資源の有効活用に寄与することが期待されます。さらに、次世代電動モビリティや大型輸送システムへの応用により、都市部のスマート化や持続可能な交通インフラの実現を支援する革新技術としても期待されます。

❒問い合わせ先

・株式会社U-MAP

 設立年月: 2016年12月12日

 所在地: 〒464-8601愛知県名古屋市千種区不老町Tokai Open Innovation Complex(TOIC)

     6階産学連携オープンラボ601

 公式サイト: http://www.umap-corp.com/

・AZAPA株式会社

 設立年月: 2008年7月14日

 所在地: 〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦二丁目4番15号ORE錦二丁目ビル3F

 公式サイト: https://azapa.co.jp/

・Future株式会社

 設立年月: 2020年10月21日

 所在地: 〒106-0032 東京都港区六本木七丁目11番24号

 公式サイト: https://www.futuremobility.fun/

参考情報>

本プロジェクトは、あいち重点研究プロジェクトⅣ期※3の一環として実施されました。

本プロジェクト事業を遂行するにあたり、愛知県、公益財団法人科学技術交流財団の関係者の皆様におかれましては多大なるご支援ご協力をいただきまして、ありがとうございました。

※1 インバーター

直流を交流に変換する装置。家電製品、電動車両、産業機械など、幅広い分野で使用されています。電動車両ではバッテリーの電力(直流)を交流に変換してモーターを駆動するために使用されます。

※2 パワー半導体

モーターや照明などの制御や電力の変換を行う半導体です。扱う電圧や電流が大きいことが特徴です。

※3

事業概要

https://www.astf-kha.jp/project/

Core Industry

https://www.astf-kha.jp/project/project1/

研究概要(PDF)

https://www.astf-kha.jp/project/project1/files/PC-2.pdf

公開セミナー 2024発表資料(PDF)

https://www.astf-kha.jp/project/project1/files/C2_Seminar2024_5.21MB.pdf

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