「自動車業界」サプライチェーン動向調査(2024年12月)
株式会社帝国データバンクのプレスリリース
2024年12月18日、本田技研工業(以下本文、ホンダ)と日産自動車(以下本文、日産)が経営統合に向けた協議に入るという報道があった。将来的に三菱自動車が合流することも視野にはいっており、3社の統合が実現すれば世界3位のグループが誕生することになる。
帝国データバンクでは、保有する「商流圏※1」をもとに、国内自動車メーカー10社※2に対して部品などのモノやサービスを提供する周辺産業(商流圏)を「自動車産業(サプライチェーン企業※3)」と定義し、調査・分析を行った。
<調査結果(要旨)>
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自動車産業のサプライチェーンは6万8485社、売上10億円未満が76.5%を占める
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多様なサプライチェーン構成企業
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ホンダと日産で重複するサプライチェーン企業は9,242社、約7割が売上10億円未満
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サプライヤーは競争力強化が生存の鍵
[用語定義]
[注1] 商流圏
帝国データバンクが特許を取得した「個別企業間の全取引シェアを推計するモデル(NIHACHI)」を用いて、任意の頂点企業における商流上(サプライチェーン)の傘下企業や取引企業において、各社の売上高が頂点企業にどの程度依存しているかを算出(特許取得済)したデータ。
頂点企業の直接取引先(一次取引先、Tier1)だけではなく、頂点企業と直接取引がないTier2(二次取引先)以降の間接取引でも売上高依存度を把握でき、頂点企業との取引額を推計できる点が特徴。
[注2] 国内自動車メーカー10社
トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、マツダ、スズキ、SUBARU、三菱自動車工業、ダイハツ工業、いすゞ自動車、日野自動車。
[注3] サプライチェーン(SC)企業
上記「個別企業間の全取引シェアを推計するモデル」を用いて、任意の頂点企業に対して売上の1%以上を依存している企業。
Tier3以降は売上高500億円未満の企業を分析対象とした。
自動車産業のサプライチェーンは6万8485社、売上10億円未満が76.5%を占める
国内自動車メーカー10社のサプライチェーン企業(自動車産業)の総数は、2024年11月時点で国内に推計6万8485社であった。トヨタ自動車が4万680社と最多で、取引階層(Tier)別にみると、トヨタ自動車と直接取引を行う「Tier1」が2306社あり、Tier1と取引を行う「Tier2」は2万2334社、「Tier3以降」は1万6040社だった。
経営統合の報道が流れたホンダは2万2465社、日産は1万9084社あり、それぞれ取引階層(Tier)別にみると、ホンダの「Tier1」は2305社あり、「Tier2」は1万4045社、「Tier3」は6115社だった。日産の「Tier1」は1817社あり、「Tier2」は1万2204社、「Tier3」は5063社だった。
サプライチェーン全体の企業のうち売上高が判明した企業を規模別にみると「1億円以上10億円未満」が3万6108社(54.1%)と最も多く、「1億円未満」が1万4952社(22.4%)と続き。「10億円未満」の企業で76.5%を占め、中小企業が自動車産業を支えていることがわかる。
多様なサプライチェーン構成企業
サプライチェーンを構成する企業の業種について「商流圏」をもとに可視化した図をみると、関与する業種間で取引が複雑に絡み合い、産業の広がりがあることがわかる。自動車製造に直接関わる部品や素材、金型などの供給業者に加え、人材派遣、システム開発、工事、運送といった一見関連性が薄そうな業種も重要な役割を果たしている。
ホンダと日産で重複するサプライチェーン企業は9,242社、約7割が売上10億円未満
ホンダと日産両社のサプライチェーンに登場する企業は9242社、三菱自動車を含めた3社のサプライチェーンに登場する企業は3472社だった。9242社のうち売上高が判明した企業を規模別にみると、「1億円以上10億円未満」が4507社(50.1%)と最も多く、「1億円未満」が1752社(19.5%)と続き、「10億円未満」の割合は69.6%とサプライチェーン全体と比べるとやや少ない傾向にある。
業種の傾向をみると、「自動車部分品・付属品製造業」が550社と最も多く、「金型・同部分品・付属品製造業」が480社、配送を担う「一般貨物自動車運送業」が381社、「工業用プラスチック製品製造業」が379社、「金属プレス製品製造業」が373社と続いた。サプライチェーン企業全体の業種をみると運送、ソフトウェア、サービス、工事関連など間接費や販管費に計上される商品・サービスを提供する企業が上位であった。ホンダと日産で重複する企業は製造業が多く、汎用性、技術力、規模、信頼性を有している自動車製造を支える需要な役割を果たしている。
サプライヤーは競争力強化が生存の鍵
両社の経営統合が実現すると、サプライヤーは規格統一、EV市場への対応、価格交渉を含めた契約見直しなどが求められる。単独での競争力維持が難しい企業においては生き残りに向け、資金力や技術力のある企業と統合することで、サプライヤー間でのM&Aの動きが加速する可能性もある。一方、自動運転やEVなど新技術分野での連携や需要拡大、両社のグローバル展開を通じて海外市場でのビジネスチャンスといった成長機会も期待される。
サプライヤーの7割を占める10億円未満の企業にとって規模的にも物価高、価格転嫁、人手不足などの環境変化が経営に与える影響は大きい。メーカーは市場環境を考慮しつつ下請法を遵守し、公正な取引条件を整えることが求められる。サプライヤーは、技術力強化や他メーカーへの展開を進め、メーカーにとって必要不可欠な存在となることが成否の分かれ目になるだろう。