EY Japan、エンジン車の50%リマニュファクチャリングによってEVのCO2排出量より優位になると試算

EY Japanのプレスリリース

リマニュファクチャリングは、資源国へのサプライチェーンの依存を削減して国内生産比率を向上させるという経済安全保障政策によって、欧米市場で導入が進んでいる

試算によると、エンジン車の製造プロセスの50%をリマニ化することで、電気自動車(EV)よりも、Well to WheelCO2排出量で優位に

日本の自動車業界が、経済安全保障とカーボンニュートラルの観点からリマニの有効性を認識し、自動車のリマニ化を踏まえ戦略的に取り組むことを提言

 
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長 近藤 聡、以下EYSC)は、エンジン車の製造プロセスにリマニュファクチャリング(以下リマニ)を導入することによるCO2排出削減効果の試算結果および提言を取りまとめました。
 

 

<リマニの重要性>

リマニとは、企業が使用済み製品から部品を回収して再利用し、新品もしくはそれ以上の品質を保証して市場に提供する仕組みです。使用済み部品を再使用・修復等で活用することにより、製品の製造にかかる資源効率やエネルギー効率を向上することができます。部品を原材料にまで分解し、原材料を再利用して新品の部品を製造するサーキュラーエコノミーとは異なる仕組みです。
 
環境問題や地政学的な資源リスクの後押しにより、リマニは欧米を中心に急速に拡大しています*1,2。米国では、単なるコスト削減ではなく、懸念国へのサプライチェーンの依存を低減し、自国へサプライチェーンを回帰させるという経済安全保障政策の文脈でリマニの重要性が増した結果、自動車業界やエレクトロニクス業界(スマートフォンやコンピューターの製造など)がけん引役となり、水面下で多様な産業のリマニ化が進んでいます。
 
EUでは、環境配慮の商品設計を義務付けるエコデザイン規則(ESPR)とデジタル製品パスポート(DPP)の導入により、修理しやすい設計と、製品に組み込まれている部品の修理や再利用履歴のトレーサビリティーが義務付けられることになりました。とりわけ自動車メーカーでは、エンジンや車載ECU(エンジン等の制御ユニット)、トランスミッション、ターボ、スターター等をはじめとして、リマニ部品の導入が広がっています*1,3。
 

<試算:エンジン車製造プロセスのリマニ化でリマニ車はEVよりもCO2排出量で優位に>

この度、エンジン車(普通車)の製造プロセスにリマニを導入した場合のCO2排出量削減効果を試算した結果、エンジン車の部品の50%を部品再利用するリマニ化することで、CO2排出量において、EVの優位性を上回ることが判明しました。
 
部品点数が多く雇用への貢献が大きいエンジン車から、部品点数が少なく、しかも基幹部品であるバッテリーの供給を資源国に依存することになるEVへの移行は、経済安全保障の観点からは日本には望ましくない展開です。日本の自動車産業がリマニに取り組むことは、経済安全保障の確保とカーボンニュートラルの実現という2つの観点から、極めて有効な取り組みとなります。自動車業界はいち早く、リマニの取り組みを経営戦略の柱に据えるべきと考えられます。
 

<補足:試算のポイント>

● 製造プロセスをリマニ化したエンジン車(リマニ車)と新品の電気自動車(EV)の、製造・組立・走行・廃棄・リサイクル*4の全工程におけるCO2排出量を試算*5し、比較しました(図1)。
● 試算の前提条件として、エンジン車は普通車サイズのガソリンエンジン車とし、比較対象となるEVには40kWhバッテリー搭載EV、および、80kWhバッテリー搭載EVの2サイズを用いています。それぞれについて、一般的な保有期間*6を鑑みて①短期(3年間)と②中長期(5年間)の走行期間を想定した場合のライフサイクルCO2排出量を導出することとしています。
● 試算の結果、①3年の走行期間を経た場合、いずれのバッテリー容量のEVよりもリマニ車の方がライフサイクルでのCO2排出を大幅に低減でき、CO2排出削減で圧倒的優位であることが分かりました。
● さらに、②中長期の保有(5年間の走行後)であっても、依然EVよりもライフサイクルCO2排出量が少ないリマニ車の方がライフサイクルで低排出になるという結果が得られました。
● 今回は試算の簡略化のため、リマニ化にかかるエネルギー消費量を厳密に反映していませんが、エンジン車をリマニ化して使用することは環境配慮の観点から有用です。さらに、官民一体となって取り組まれている合成燃料の実用化が現実となれば、ガソリンから合成燃料へのシフトによってEVに対する優位性はますます高まるでしょう。

 

EYSCの提言:電化一辺倒から、日本企業の強みを生かせるカーボンニュートラル戦略へ>

今回の試算結果は、CO2排出削減を理由にEVがエンジン車に取って代わるべきという考え方に疑問を投げかけました。エンジン車へのリマニ導入はカーボンニュートラル実現の着実な一歩となり、さらに、燃料を合成燃料(e-fuel)に移行できれば、EVの優位性を上回ることになります。日本の自動車業界はグローバル市場での競争力を高めるため、エンジン車のリマニ化、および、これに伴うサプライチェーン改革を経営戦略に組み込むことを検討していくべきと提言します。
 
 
EYSC ストラテジック インパクト パートナー 國分 俊史のコメント:
「地政学リスクの高まりを受け経済安全保障はさまざまなルールとなり、企業の経営環境の前提条件を非連続かつ抜本的に変化させるため、今後少なくとも30年から40年は予見が非常に難しい状態が続きます。ゆえに、経済安全保障政策への対応を最優先した企業戦略の立案は持続的な成長に不可欠です。
EVは最も重要なバッテリーを懸念国に依存している問題の解決が見込めないことに加え、50%リマニ化したガソリン車にCO2排出量で劣るのであれば、ガソリン車のリマニ化に積極的に取り組むべきと考えます。日本の自動車業界が経済安全保障とカーボンニュートラルの観点からリマニの有効性を認識し、自動車のリマニ化を踏まえた戦略を検討することを提言します」
 
EYSC EYパルテノン ストラテジー(Mobility & Commercial Vehicle)  パートナー 早瀬 慶のコメント:
「リマニの対象は9産業にまたがり、特に航空・宇宙・船舶・建機では従前から事業・市場として成立してきました。自動車産業においても、欧米企業を中心に水面下での活動を含め70年以上の歴史がありますが、昨今、国際的緊張が高まる中、リマニ先進企業はすでに母体国である欧米地域に回帰し、拠点やリソースを再配置しています。
今回の試算は、やみくもにEVを担ぐ潮流に対して思想・感情論ではなく定量的に疑問を投げかける点で意義があります。「普通車であっても」前述の定量効果が得られることが明らかになり、世界の保有車両の約33%を占める大型ピックアップやトラック・バスなどの商用車では言うまでもなく、さらに大きなインパクトが創出可能です。
自動車産業は、長期的には、さまざまなパワートレインや燃料の組み合わせで、地球環境を維持していくことが必要ですが、リマニは、一足飛びには、また、0/100には成り得ない、パワトレ×燃料課題の現実解として、大きな意味があると考えます」
 
 
*1 ‘Report on the current status, impacts and potential of the European automotive component remanufacturing industry’, CLEPA, clepa.eu/wp-content/uploads/2022/01/CLE09_European-remanufacturing-market-study_v6_public-view-.pdf(2024.7.10アクセス)
*2 ‘What is remanufacturing?’, Rochester Institute of Technology, www.rit.edu/sustainabilityinstitute/blog/what-remanufacturing(2024.7.10アクセス)
*3 Nikkei Tech Foresight「編集者の視点 『ボルボが注力するリマニ』など3本」www.nikkei.com/prime/tech-foresight/article/DGXZQOUC126JP0S3A011C2000000(2024.7.10アクセス)
*4 リマニ化によるエネルギー消費量は製品・部品の修復度合いによって異なりますが、ここでは試算の簡略化のため、エネルギー消費量をゼロ(全ての部品が再使用可能)と仮定しています。
*5 ‘Global EV Outlook 2020’, IEA, June 2020, iea.blob.core.windows.net/assets/af46e012-18c2-44d6-becd-bad21fa844fd/Global_EV_Outlook_2020.pdf (2024.2.22アクセス)、経済産業省「グリーンイノベーション基金事業『次世代蓄電池・次世代モーターの開発』プロジェクトに関する研究開発・社会実装計画」、2021.11.11、
meti.go.jp/press/2021/11/20211111004/20211110004-2.pdf (2024.2.22アクセス)を基に試算しています。
*6 近年、一般的なメーカー保証期間が終わる3年後や5年後の買い替えを見据えて残価設定ローンを選択する消費者数が増加傾向にあることが確認されています。
 
 
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