大阪大学 産業科学研究所のプレスリリース
記者発表は、同大 工学研究科と共同開催で、佐伯 昭紀教授(大学院工学研究科 応用化学専攻)の「一元化・オートメーション化・迅速化の三拍子を備えた次世代太陽電池開発手法」の発表と同時に行われる。
パワー半導体モジュールの社会実装を一気に加速!
高信頼性、材料コスト削減を実現する銀とシリコンを用いた新接合材料
産業科学研究所フレキシブル3D実装協働研究所
工学博士 陳 伝彤 特任准教授(常勤)(専門領域:半導体実装技術、金属材料物性)
研究成果のポイント
・製品の信頼性向上・材料コストの削減につながる、銀とシリコンを用いた接合材料を新開発
・従来材料(銀のみを使用した接合材料)と比較し、SiCパワー半導体実装構造の寿命が約2倍に向上
・EV(電気自動車)への応用をはじめ、パワー半導体モジュールの社会実装の加速へ期待
概要
大阪大学産業科学研究所フレキシブル3D実装協働研究所[1]の陳伝彤(チン・テントウ)特任准教授(常勤)らの研究グループと株式会社ダイセルは、銀(Ag)とシリコン(Si)の複合焼結材料の新開発に成功しました。この新開発材料は、銀のみを使用した従来材料と比較し、厳しい熱衝撃試験後の結果において(-50℃〜250℃で1000サイクル)、約2倍の強度保持率を達成しています。この材料を使用することで、極めて高い信頼性を維持しながら、材料コストの削減を実現する高性能パワー半導体の製造につなげることができます。
<従来材料の課題>
脱炭素化の社会において、EV(電気自動車)の普及に欠かせないのが「SiC(炭化ケイ素)パワー半導体」です。この半導体は、電力変換ロスを大幅に低減し、機器の小型化や、CO2排出量削減に大きく貢献します。その一方で、200℃を超える高温環境下では動作上の課題を抱えており、その課題に対して、安定的な動作を保証するための耐熱・放熱技術や、構造信頼性を維持する材料の開発が遅れていました。
この高温動作の課題に対しては、現在までに銀ナノ粒子(粒径<100nm)焼結接合技術の活用が主に検討されていますが、それも厳しい熱衝撃試験(-50〜250℃)では、銀接合層と半導体デバイス接合界面(境界)に亀裂が発生したり、構造が破壊されるなど、多くの課題が残されていました。
<新開発材料の特徴>
今回の新接合材料では、銀とシリコンの接合界面におけるシリコン表面に酸化膜ができることで、低温界面が確実に形成され、低い熱膨張係数の接合材料を実現し、界面亀裂の発生および構造破壊の問題が大幅に改善されました(図1)。さらにシリコンの添加量を調整することにより熱膨張係数の制御が可能となります。
今回の研究で新開発した銀とシリコンの複合焼結材料をSiCパワー半導体とDBC基板(Cu回路付きセラミック基板)の接合材料として使用することで、SiCパワー半導体と接合材料の熱膨張ミスマッチを低減させ、厳しい使用環境においても接合界面の亀裂や構造破壊が起こりにくくすることができ、優れた接合信頼性を得ることが可能になります。さらに、シリコンを加えることにより、従来の銀のみの接合材料と比較して材料コストの削減につながることが期待されます。
この成果は、SiCパワー半導体の長寿命化と、その実装構造の信頼性向上、ならびに接合材料コストの削減につながります。社会におけるEV(電気自動車)への応用など、新世代パワー半導体モジュールの社会実装を一気に加速することが期待されます。
[1] 大阪大学における産学連携のオープンイノベーション拠点
図1
(a)SiCパワー半導体とDBC基板との接合構造
(b)銀とシリコンの接合界面におけるシリコン表面の酸化膜
(c)同じ熱衝撃試験での1000サイクル後の構造内部の劣化比較。銀のみを使用した従来材料の接合構造と比較し、クラック(亀裂)が小さくなり数も減少
(d)厳しい熱衝撃試験(-50℃~250℃)において、銀とシリコンの複合焼結材料は、銀のみの従来材料と比較し接合強度維持率が約2倍に。
記者発表のご案内
本件に関しては、「第4回産研・工学研究科定例記者発表」にて発表を行います。
一般の方のご参加はできません。
(同日発表)
一元化・オートメーション化・迅速化の三拍子を備えた次世代太陽電池開発手法
大学院工学研究科 応用化学専攻 佐伯 昭紀 教授
(専門領域:ナノテク・材料、ものづくり技術、電子デバイス、電子機器)
※詳しい内容に関しては、リリース原稿PDFをご参照ください