【台湾情報】台プラの台塑新智能科技(フォルモサ・スマート・エナジー・テック)が電池事業に再挑戦<ワイズ機械業界ジャーナル2023年5月第3週号発行>

威志企管顧問股イ分有限公司(ワイズコンサルティンググループ)のプレスリリース

ワイズコンサルティング グループ(本社:中華民国台北市、代表取締役:吉本康志)は台湾機械業界専門誌「ワイズ機械業界ジャーナル」の2023年5月第2週号を発行しました。今週号では半導体業界、手工具業界、電気自動車用電池業界、工作機械の動向を紹介します。

 

<今週号目次> 

  • 台湾電子・半導体生産用機械設備製造業の概況と2023年の展望

  • 台湾動力手工具製造業の産業概況と2023年の展望

  • 台プラの台塑新智能科技(フォルモサ・スマート・エナジー・テック)が電池事業に再挑戦

  • 台湾工作機械産業の中欧市場展開

<台プラの台塑新智能科技(フォルモサ・スマート・エナジー・テック)が電池事業に再挑戦>

 台塑集団(台湾プラスチックグループ)は2022年6月、台塑新智能科技(フォルモサ・スマート・エナジー・テック)を設立し、電気自動車(EV)や貯蔵システム向けに、リン酸鉄リチウム(LFP)電池セル工場とモジュール工場を建設すると発表した。

 台塑新智能科技の資本金は70億台湾元で、台プラグループ主要4社と台塑生医科技(フォルモサ・バイオメディカル・テクノロジー)が出資している。董事長は王瑞瑜氏だ。160億元を投じて彰化浜海工業区(彰浜工業区)に台湾最大の電池セル工場を建設する。

 08年に死去した台プラグループの創業者、王永慶氏は、グループの第6ナフサ分解プラント(雲林県麦寮郷、通称六軽)が稼働する前の1997年、EVが21世紀の主流になると予言していた。翌98年、自動車製造と電池開発に参入したが、不調に終わった。

 台塑新智能科技の設立は、台プラグループにとって電池分野での再挑戦となる。中国、日本、韓国メーカーが電池市場を寡占する中、台プラグループには電池の内製率70%という大きな強みがある。

電池セル新工場、27年に年産能力5GWhへ

 電池セル工場は彰浜工業区の用地6ヘクタールに建設する。第1期は24年第3四半期(7~9月)にフル稼働する予定だ。第2期は27年に完工予定で、生産能力は第1期と合わせて5ギガワット時(GWh)となる見通しだ。

 台塑新智能科技の劉慧啓・総経理は、「EVもエネルギー貯蔵施設も鍵となるのは電池セルだ。ナフサ分解プラントが石化事業の心臓を担うように、彰浜工業区に設置する新工場は電池事業の心臓の役割を果たす」と説明した。

 六軽の稼働後、台プラグループの売上高は増加し続け、2兆元を突破した。そして今度は、2年以内に初の電池セル生産ラインを稼働させる予定だ。背景には、電池需要が世界的に拡大し、電池セルが供給不足になっていることがある。台プラグループとしては、安全性など品質の高い電池を供給するには、自前の電池セル工場を確保しておく必要がある。

 台湾中油(CPC)のある主管は、台プラグループは電力使用量と二酸化炭素(CO2)排出量が台湾最大で、蓄電池の導入を増やす必要があることも、電池セル工場を建設する理由の1つだと指摘した。

 劉・総経理は、台湾では30年時点で▽エネルギー貯蔵施設、▽電動バス、▽産業用無停電電源装置(UPS)など向けの電池の年間需要は少なくとも7.21GWhに上り、世界全体では3300GWhに達すると予想した。

 工業技術研究院(工研院、ITRI)材料・化工研究所(材化所)の陳金銘・組長は、欧米諸国が地政学的な理由から、中国メーカー以外から電池を確保しようとしていることも追い風となり、台湾のメーカーは急成長する電池市場に食い込む余地があると指摘した。

台プラの3つの強み

 劉・総経理によると、台塑新智能科技には3つの強みがあり、1つ目は電池セルの生産規模が大きいことに由来するコスト競争力の高さだ。新工場で計画する年産能力5GWhの場合、年産能力20GWhの場合と同様、単位当たりの生産コストが約96米ドルとなる。

 2つ目の強みは、日本や韓国のメーカーより早い段階からリン酸鉄リチウム電池の基礎研究を手掛け、製品の応用でも豊富なノウハウを持っていることだ。例えば、台プラグループは10年の時点で、台湾の大手光電メーカーが無停電電源装置(UPS)に使用していた鉛蓄電池をリン酸鉄リチウム電池に切り替えることに成功していた。

 3つ目の強みは、電池材料をグループ会社の▽台塑鋰鉄材料科技(フォルモサ・リチウム・アイロン・オキシド)、正極材料、▽台塑三井精密化学(FMAC、中国・浙江省寧波市)、電解液、▽南亜塑膠工業(南亜プラスチックス、南亜プラ)、銅箔(どうはく)、▽台湾塑膠工業(フォルモサ・プラスチックス、台塑)、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)──から調達できることで、内製率は70%以上に達する。将来的には80%以上に高める計画だ。

 ただ、台プラグループにも課題はある。重要原料のリチウムをいかに安定的に確保するかだ。

豪州でリチウム確保へ

 過去3年間のコロナ禍で、自動車の世界販売台数は減少したものの、EVの販売台数は4倍に増加した。この影響により、電池原料のリチウムの価格が高騰したため、リチウム鉱山を確保しようとする自動車メーカーと電池メーカーが急増した。台塑新智能科技も21年末からリチウム鉱山の開発計画に着手し、現在は世界最大のリチウム生産国である豪州での開発を狙っている。

 また、台塑新智能科技は外部からのリチウム調達量を減らすため、明志科技大学(新北市)と共同で、使用済みリチウム電池からリチウムを回収、再利用する技術の開発を進めている。明志科技大学化工系の蘇家弘・主任によると、炭酸リチウムの回収率は80%に達しており、今後は再利用後の性能試験を行う方針だ。

中国メーカーが大幅リード、課題は人材育成

 劉・総経理は、EV用電池は中国メーカーが世界シェア60%を握っており、短期的に追い抜くことは困難と指摘。特に、中国メーカーは過去10年以上かけて育成してきた電池、材料関連の人材面で最大の強みがあるという。

 こうした中、台湾の学術界では電池関連の人材育成を強化しており、台プラグループも関連の学部や学科を専攻する博士課程学生への奨学金を提供している。
 創業者が予言していたEVの時代が到来した今、台プラグループは電池事業で成功できるのか。経営陣の手腕が試されることになる。

<ワイズ機械業界ジャーナル>

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