住友商事株式会社のプレスリリース
住友商事は、国内市場や北米市場などに向け、自動車や鉄道といった輸送機器関連の資機材・製品を長年取り扱ってきました。世界で脱炭素化に向けた流れが加速する中、輸送機器関連の事業に取り組む鋼材本部では、内燃機関の再定義を図り、輸送機器分野での電動化や環境配慮型ビジネスにつながる技術を模索してきました。
ディーゼル車のCO2排出量削減に向けて
ディーゼルエンジンは軽油を燃料とする内燃機関です。商用車・特殊車両においてディーゼルエンジンの需要が大きく、重量物の長距離輸送、トルク(※)が必要な荷役作業などで活用されています。既存のディーゼル車に対し、電動化や水素燃料電池の導入を推進するには多くの時間を要すると見込まれます。国内運輸における温室効果ガスの約4割を貨物自動車および船舶が占めており、ディーゼルエンジンを使用した上でのさらなるCO2排出量の削減が求められています。
※トルク:固定されている回転軸を中心として生み出される力のこと
水素を活用するD-HAT(Diesel Hydrogen Assist Technology)
Hydrogen On Demand Technologies は、トラック、バス、重機、船舶などの輸送機に搭載されている8リットル以上の大型ディーゼルエンジン向けに、水素を活用して燃焼効率を上げる装置「D-HAT」を独占的に開発・販売しています。
D-HATは、水を電気分解することで毎分4リットルの水素を生成し、高圧水素タンクで貯蔵することなくディーゼルエンジンに送り込み、水素により燃焼効率を高めます。これにより従来のエンジンの性能は維持しつつ、燃費を向上させることで軽油使用量とCO2を含む排気ガスの量をそれぞれ10パーセントから15パーセント削減し、経済価値と環境価値を両立させることが可能です。D-HATは、水素ステーションや外部からの水素注入を必要とせず、ディーゼルエンジンに後付けが可能な点が特長です。
D-HAT本体。軽量かつコンパクトでディーゼルエンジンへの取り付けが容易。欧米ではトラック輸送などでD-HATの導入が進んでいるが、日本では数台にとどまっており、今後の導入が期待される
D-HAT内部の仕組みのイメージ図。電気分解によって生成された水素がディーゼルエンジンの燃焼を効率化する
国内外での実証実験
3月28日には、名古屋港飛島ふ頭で、港湾でコンテナを輸送する港湾荷役機器へのD-HATの据え付けが行われました。港湾荷役機器での本格実証を進めるとともに、無人搬送車への導入も視野に入れていきます。
名古屋港での実証実験に加え、日本全国の港湾においても、カーボンニュートラルポートの実現に向けてD-HATの導入を進め、地域課題の解決に貢献していきます。
さらに、北米の貨物輸送を担う地場企業にも米州住友商事が掛け合い、同地域でD-HAT導入の実証実験を開始しています。当社は、各産業が持つ特殊性、課題に向き合いながら、これまで培ってきた輸送機器分野における知見を生かして、CO2排出量の削減に貢献していきます。
湾荷役機器のディーゼルエンジンに取り付けられたD-HAT
パートナーの思い
名古屋港飛島埠頭での取り組みは、オペレーションを担う飛島コンテナ埠頭株式会社、D-HAT輸入販売元であるエントランスフォーメーション株式会社、港湾を管理する名古屋港管理組合と連携の上、進めています。
名古屋港での当社担当者とパートナー関係者の集合写真
飛島コンテナ埠頭株式会社
エネルギーの脱炭素化が急がれる一方、インフラ環境の整備など、そのために必要なコストは大きく、まだまだハードルが高いのが実情です。当社ができる取り組みを半歩でも前に進めるべく、D-HATでチャレンジすることにしました。
名古屋港管理組合
本事業は、本組合が昨年開催した「名古屋港水素エネルギー展」をきっかけに始まり、本年3月に公表した「名古屋港CNP形成計画」に位置付けた取り組みでもあります。これを足掛かりに、名古屋港における港湾物流の脱炭素化が進むことを期待しています。
エントランスフォーメーション株式会社
D-HATは、経済性と環境性を同時に向上するユニークで現実的な水素ソリューションです。本実証事業では、住友商事様、飛島コンテナ埠頭様、名古屋港管理組合様と共に、このD-HATによる港湾ソリューションを実証し、港湾物流業界全体の脱炭素化の進展に貢献できればと考えています。
パートナーと力を合わせ、中部地域のカーボンニュートラルを推進
輸送機材事業第二部 唐澤 直哉
カーボンニュートラルを事業者も満足のいく形で進めていく方法を模索し、地域課題解決に少しでも貢献したいと考えている中でD-HATと出会いました。中部支社との連携の下、名古屋港水素エネルギー展に出展した際に、名古屋港関係者にD-HATをご覧いただきました。中部圏水素利用協議会の事務局を当社が務めていることもあり、このような取り組みをしやすい土台がありました。
中部地域のカーボンニュートラルへの前向きな姿勢、チャレンジする精神と、D-HATの特長や当社の取り組みが上手くマッチしたと考えています。
また、国土交通省のカーボンニュートラルポートの形成に資する技術・取組事例集でも本件が採択されました。全国の港湾への展開に加え、他の輸送機器への導入を通じて、新たなビジネスモデルとして育てるとともに、環境課題解決に貢献していきます。